全国でも珍しい私設動物園

紀勢大内山インターを降りて、山々に囲まれた一本道を走る。
やがて現れた看板を頼りに、何もない山道を登って行くと…森の動物園「大内山動物園」が見えた。
ログハウスのような木製の獣舎が、新しさや温かさを感じさせる。

大内山動物園の前身は1970年にオープンした「大内山脇動物園」。
動物好きだった前園長・脇正雄氏が自宅でクマやシカなどいろんな動物を飼いはじめ開いた私設動物園だ。
物珍しさもあり、最初こそ話題となったが、その後は経営難に。
脇氏自身も病気となり、友人である山本清號氏が訪れた時には、動物はやせ細り、獣舎は異臭を放ち、実にあわれな惨状だったという。

そして、2008年に脇氏が亡くなったため、行き場のなくなった動物たちを前に、山本氏は、私財を投げうって動物園を再建させることを誓ったのだった。

「動物のため」を最優先に再建

飼育員の阿部さんは2009年の仮オープンの年に入社。

「まだそのころは、園内の道も舗装されておらず沼地状態で…。当時は、何が辛かったかって獣舎の『土替え』の作業です。一輪車で山の上まで運んで、そこから軽トラで運んで…飼育員というより土木作業員のように、毎日泥だらけで土を運んでいました」

今の姿からは全く想像ができないが、この形になるまでは相当の苦難の時代があったようだ。

「それでも、（脇園長から引き継いだ今の）山本園長が僕たちの提案に対して“よしすぐやろう”と言ってくれる。動物のことを思い、すぐに改善していけるから、大変ですが、やりがいがあります」

人懐っこい動物たちの秘密

ウマグマという聞きなれない熊を見せてもらった。動物のぬいぐるみの背に乗って幼児が遊ぶ100円遊具（サファリペットというらしい）みたいなコロンとしたクマ。つぶらな瞳でとてもかわいい。

「日本に5頭しかいない珍しいクマです。ある動物園が閉園したので、引き取りました」

聞けば、ここにいる動物たちの大半は、ワケありの動物たち。事故で傷ついたり、捨てられたりした子ばかりだ。

ここでは、そんな動物たちの心や身体の傷を癒すための管理棟を作り、そこでリハビリをした後に専用の獣舎を与えている。

だからなのか、ここの動物たちは、人間との距離が近いように感じる。

カメラも平気で、逆に向こうから近づいてきてくれるほど。

「普段から、えさをやりながら飼育員がカメラを向けているからでしょうね。それと人が立つ柵のほうに日光が当たるよう獣舎を作っているので、動物が日光浴しようと人側に集まってくるのもあります」

しかもココは餌やり体験（100円）もできるため、触れ合いも楽しめる。
…でも、本当にそれだけだろうか？？

「いのちの尊さ」を感じる動物園

傷ついた動物たちを保護している管理棟では、私たちの姿を見るとたくさんの犬が吠えてきた。

「あんた何者⁉」
「おい、なでてくれよ！」
とでも言うように、視線を外さずに吠えてくる犬たち。動物たちは、ちゃんと何かを伝えようとしているのだ。

ここまで動物園でそんなことを感じたことはない。ここの動物たちは、まっすぐにこちらを見る。確かに“自分と同じく生きている”と感じたのだった。

ここに来たら、動物たちのメッセージをいっぱい受け取ってほしい。そして、ここの饒舌な動物たちと触れあって欲しい。「いのちの尊さ」を感じることで、何かが癒され、来園者も動物も“るんるん気分”になる。そんな私立動物園にぜひ足を運んでもらいたい。