畑のうなぎとして珍重されたヤマノイモ

「伊勢いも」とは、300年以上前の江戸時代に伝わったヤマノイモの一種。とはいえ、よく知られているような棒状の長芋ではなく、ごつごつしたボールのような形をしているのが特徴だ。

栽培されているのは、おもに多気町津田地区。多気の土壌は砂気が多く、水はけがよいため伊勢いもの栽培に適している。
さらに津田地区は、櫛田川沿岸で肥沃な土壌であることから、昔から伊勢いもの栽培が盛んにおこなわれていたとか。

ごつごつした外見とはうらはらに、その上品な味わいは多くの人をとりこにした。アクが少なく、強いねばりとクリーミーなコク。
「畑のウナギ」と言われるほど滋養があり、貴重であったため贈答品として人気でもあった。
さらに時間がたっても変色しにくいため、料理人からも大変珍重されている作物なのである。

プロの伊勢いも料理に脱帽

多気町内に伊勢いも料理が手軽に味わえる専門店があると聞いて行ってみることに。
「私の両親が店を始めた昭和48年当時は、まだ伊勢いもを扱っているお店はありませんでした。伊勢いもは貴重な高級品でしたから、地元の人の口にはあまり入らなかったのです。
ですが、特産なのでいろんな人に知ってほしい、気軽に食べてみてほしい、と店を始めたそうです」と「伊勢いも料理 柑里」の中井薫社長。
しかし、ねばりが強すぎるために、扱いも大変だったそう。擂る機械を導入したものの、その力にモーターが負けてしまい、すぐに壊れてしまったとか。

それでも試行錯誤を繰り返し、絹のようななめらかさを出すことに成功した。
「なめらかにするには、手間も時間もかかりますが、料理になると自然薯よりもアクがないぶん食べやすくなる。伊勢いもって、本当に美味しい芋なんですよ」

人気の「麦とろ定食（1290円）」を頂いた。ふんわりと上品な味。そしてとてもサラッとなめらかだ。トッピングを加えて食べればさらに箸が進んでしまう。伊勢いもで作った豆腐、磯部揚げも絶品だ。あまりにも美味しいので、この味の秘密は、とつい聞いてしまったところ「“こころをこめてすること”です」とニヤリと笑う社長。「丁寧に少しずつすらないと、この食感にはなりません。とろろはのど越しが命ですからね」
確かにこの味は、ぜひ店で味わってみてほしい。

家庭でもできる伊勢いも料理

手間はかかるが、それ以上のご褒美（美味しさ）がある伊勢いも料理だ。

時間がたっても白く美しいので見た目もグッド！ぜひ挑戦してみて。

＜伊勢いもの処理方法＞
①亀の子だわしで芋の食い込みをしっかり洗い、皮をむく。
県立相可高校食物調理科の村林先生によると、滑りやすいときは「手に塩をつけてすべり止めにする」といいそうだ。また、ほかの芋に比べて、かゆくなりにくいが、かゆくなったら酢水につけるといいとか。
②粗めのおろし金でおろし、ねばりを出すためにしっかり擂る。上にあげて糸になるくらいまで粘ったら完成だ。
③だし汁を加えれば＜とろろ＞の完成
④片栗粉・みりん・濃口醤油・塩少々を加えてまぜ合わせ、のりではさんで160～170℃の低温で揚げると＜磯部揚げ＞の完成
※持ち上げるときは、はしを両手に持って水あめのようにくるくるとまわして取るのがコツ