狭い街道筋に建つ昔ながらの蔵…創業から125年、今でも当時と同じ製法で醸造酢が作られている。時折ふわんと漂う甘酸っぱい匂い。醸造酢は、アルコールを酢酸菌で発酵させることでできるが、そんな熟成した匂いが、育んできた時間を思わせる。 「ああ、よういらっしゃいましたな」。 そう言って蔵の中から出てきたのは、4代目(現会長)の岩橋弘善さん。現在、社長業は息子の邦晃さんに譲っているが、今も「生きがいだから」と現役の職人として日々蔵の中を動き回っているそうだ。
4代目の娘であり、広報を担当している西尾さんに、製造過程を見せていただいた。 はじめに行われるのは、仕込み液(酢もろみ)作り。袋に入れた酒粕を桶に入れて重石をのせ、石の重みで少しずつ、自然に絞られるのを待つ。そこに、酢のもととなる種酢(前回発酵が終わった酢)と醸造用アルコール、湯を加えて仕込み液を作り、しっかり混ざるように櫂を入れる。 実際、仕込み液を混ぜるだけでも2時間の重労働。昔ながら…は、言うは易しだが、決して楽な道じゃない。
仕込み液が完成すると、ポンプを使って二階の発酵室へと送り出す。仕込み液をなみなみと満たした発酵槽には、木蓋が敷かれ、その上にむしろがかけられている。 「人間と一緒で、酢も寒いと凍えるし、暑いとダレてくるんです。人間が過ごしやすい季節が、酢酸菌にとってもちょうど良い。寒い季節はむしろをもっと敷き詰めたり、暑い時期には減らしたりして、私たちが調整してやらないといけないんです。まるで、子どもみたいですよ」
西尾さんが、むしろを外して、発酵槽の中を見せてくれた。 酢酸菌膜(ちりめん膜)が表面に現れ、槽一面に広がっている。これがキレイに張ると、元気に出来ているよ、というサインなのだそうだ。 「これ、とっても温かいんですよ」。手をかざしてみると、菌膜からぽかぽかした熱を感じた。…ああ、本当に生きているんだと心が躍る。 「発酵が終わると温度が下がるんです。その絶妙のタイミングを見極めるのもプロの技ですね」
発酵期間は、およそ1~1か月半ほど。大手メーカーの酢は、仕込み液の中に機械で空気を送り込み、2・3日で発酵させるのが主流。これは、短時間で大量に発酵させることのできる「通気発酵」という方法だ。 ところが、山二造酢は槽の中でゆっくりと時間をかけて発酵させる「静置発酵」を行っている。時間をかけることで、もろみに含まれるアミノ酸が熟成し、まろやかさと透明度が増すのだ。
「だから、うちの酢は、カドがとれたまろやかな酸味に仕上がっているんです」 確かに、ここの酢は、ツンとした刺激臭がない。口当たりも実に優しい。正直、はじめて酢を美味しいと思ったぐらいだ。
「私も、嫁いでここを離れて、初めてうち以外の酢を試した時に、同じように使っているのに全然お料理の味が決まらず、この美味しさに気づかされたんです。あるのが当たり前だったので、違いが分からなかったんですよね」と西尾さん。 うん、今ならわかります、その味の違いが!不肖ながら、酢料理だけでなく、皿うどんや唐揚げにかけたり、そうめんのつゆに入れたり、マイ酢を持つほどにハマってしまったのだから。
つくづく、この世には知らないことが多いなぁと思う次第。 約3か月かけて作られる山二造酢の酢…これは、お土産にしてよかったランキング、堂々のナンバーワンでありました。
発酵に20日、熟成に約1.5か月、ろ過・殺菌を経て、ようやく製品へ。
先祖代々続く種酢を守り、引き継いできたからこそ生まれる味わい。種酢で酢の良しあしが決まる、と言われるが、この味を続かせるためには絶対に手抜きは許されない。
購入は蔵の近くにあるビネガーショップ「美味しいde酢」で。自社商品を販売するとともに、様々なイベントを行い、地域との距離を縮めようとオープンした。
お土産には、飲む酢「Gin-Vine(ジン・ビネ)」シリーズもオススメ。生姜とゆずを配合したタイプが人気だ。
コンシェルジュ山二造酢 広報 西尾 美和さん
山二造酢では、昔ながらの酢を使って、オリジナル商品も開発しています。 名古屋市の星が丘テラスでも販売された「安濃津ぴくるす」や果汁を加えて爽やかに仕上げた飲む酢「Gin-Vine(ジン・ビネ)」シリーズなど、酢の美味しさを活かした新しい商品として好評です(通販でも販売)。 津にいらっしゃったら、ぜひ蔵見学にお立ち寄りください(要予約)。 生きた調味料、酢の魅力に触れてみませんか。