涅槃図とは、釈迦が亡くなった時、つまり「涅槃に入られた」時の様子を描いたもの。 曹洞宗の多くの寺院では釈迦の入滅した2月15日に合わせて涅槃図を飾り、法要を行っているが、ここ津市の林性寺でも3月14~16日の3日間だけ涅槃図が公開されている。
本堂に飾られている涅槃図は、縦3.4メートル、横2.58メートルとたいへん大きなもの。 中央の釈迦は金箔が貼られた見事なもので、入滅したとはいえ存在の絶対性を感じさせる。 そのまわりには、嘆き悲しむ弟子や菩薩、象や獅子、亀なども同様に悲しみにくれている。
この涅槃図が特別なのは、ここに他の涅槃図にはない「ネコ」が描かれているからである。 日本にはいない象やら獅子が描かれているのだから、猫1匹いなくたって…と思ったのだが、どうも違うらしい。これについては諸説ある。
釈迦の使いであるネズミが薬袋を取りに行こうとした。 しかし、ネコが邪魔したので釈迦は薬を飲むことができず亡くなり、涅槃図に描かれないのだとした説や絵師が赤の絵具を探していたところ猫が持ってきたため、それ以来猫を描き入れることにしたとする説、絵師の飼い猫をそっと入れたとする説、依頼主からの注文などなど、ネコにまつわる逸話は尽きない。
日本で描かれた涅槃図には猫を描いたものが少ないため、林性寺の涅槃図はとても珍しく価値のあるものだ。 そこにはどんな意味があるのか…これは、実際に自分自身が絵を見て問うてみるのがいいと思う。 涅槃図は死生観を表したもの、そこに投影されているのは、死を見つめることで生を見つめることになるからだ。
涅槃絵のある林性寺は、このあたりで勢力を誇った氏族・榊原氏の菩提寺。もちろん榊原温泉とは目と鼻の先。
涅槃絵の公開日には、参拝者に甘酒が振る舞われる。誰もが猫を探して、指さす様子が面白い。
涅槃絵の公開日は中日の15日が最も賑わう。昔は屋台も出て子どもたちも朝からソワソワわくわくしていたそう。
雨の日の境内には、かわいいかえるの子たちがお堂の方でピョンピョン。涅槃図にはかえるは登場していないはずですが、釈迦の使いかも…。
コンシェルジュライター宍戸厚美さん
1年に1度しかお目にかかれない貴重な涅槃図。 しかも全国的にも珍しい猫が描かれた絵…これは仕事を休んでも見に行く価値あり! しかも林性寺の近くには、まろき湯の榊原温泉や縁結びの射山神社があり、立ち寄りスポットも多くあります。 旅の最後は温泉でのーんびり、といきましょう!