6代目社長の挑戦やいかに

旧熊野街道沿い、大台町にある元坂（げんさか）酒造は、山間部ならではの適度な冷え込みと清流宮川の豊富な伏流水を活かした酒造りで注目を集めている。お会いしたのは6代目社長の元坂新さん。

「私の父の時代は、酒は過剰生産になって安売り路線になっていました。（継ぐ時は）先の明るい商売ではなかったですよ」

…大学を卒業して、自社を継ぐために帰ってきたものの、日本酒は下火の時代。営業に行っても値引きの話にしかならない現状に、このままでは生き残れない、と痛切に感じた元坂さんは、安くて需要のあった自社の看板商品「東獅子」「五十鈴川」を主力とするのをやめた。

そして、品質重視に舵を切って新たに作った酒に冠したのは「八兵衛」…酒造りに情熱を注いだ創業者の名前だった。

幻の酒米から三重の酒をつくる

小さな酒屋として何ができるか…自ら杜氏となった元坂さんは、いつも考えていた。
そして耳にしたのが、昭和25年ごろに姿を消した「伊勢錦」という幻の酒米の話。三重県農業試験場に保存されていた種もみを、ほんの少しわけてもらって地元の農家に持っていき米の栽培からスタートした。

「どうせやるなら、こだわらないと面白くないでしょ」。
そう軽く言ってのける元坂社長だが、覚悟していた通り、コシヒカリよりも30cmも背丈が高いため倒伏しやすいなど栽培が難しく、最初は酒造りができるほどとれなかった。そして過ぎること3年、難産の末にできたお酒「伊勢錦」がようやく産声をあげる。その味は、水のように澄み、ふくよかで優しかった。

酒米づくりも自分たちの手で

酒造りは冬の間だけ、あとは何しているんですか、と聞いたら「遊んでますよ」とニヤリ。腑に落ちない顔をしていると、酒蔵の前に広がる田んぼを見せてくれた。「実は、これを作っているんですよ」。
よく聞けば、酒米の伊勢錦は、高齢化などが原因で契約していた農家が米作りをやめてしまったのだとか。新ブランドとして軌道に乗せた矢先の信じられない出来事。

しかし元坂社長は、そんな状況でも「でも自分たちが作ればいいかと思って」と軽く言ってのける。

「やってみたら、結構楽しいものなんですよね」。
逆境も苦難もみんな楽しめてしまう元坂社長…そんな言葉は使わないが、心の奥は熱い情熱の炎があるのを隠し切れない。

美味すぎる！特別純米酒の生原酒

大きなタンクの中でもろみがぶくぶくと泡をたてている酒を大きなタンクから試飲させていただいた。さわやかな酸味と甘い香り、シュワシュワとした独特の喉ごしに驚く。このにごり酒、美味しすぎる！しかし残念ながらその日は購入できず、泣く泣く販売の日を待つことに（しかしすぐ完売）。その代わりに純米吟醸酒を何本か購入したが、どれもとても飲みやすく、料理との相性もよく、すっかり日本酒と八兵衛が気に入ってしまった。
酒は作り手の思いを素直に映す。美味しいものは、やっぱり分かるもの…！